今週のミッションは、Ubuntu環境へのジョブ管理システム「PBS Professional」のインストールでした。
しかし蓋を開けてみると、ufw(ファイアウォール管理)コマンドすら「command not found」と返ってくる、徹底的に削ぎ落とされた特殊な環境でした。普段の感覚が通用しない場所に、いきなり放り込まれた感じです。
墨を磨るところから始めるしかない
書道では、書き始める前に墨を磨ります。硯に水を数滴垂らし、固形墨をゆっくり円を描くように動かす。5分、10分。焦っても墨は濃くなりません。この工程を省くことはできません。
今回の作業も、同じでした。依存関係エラーでパッケージが直接入らない。インターネットへの経路もない。「普通の手順」が一切通用しない環境で、まずできることを一つずつ確認するところから始めるしかありませんでした。
NAT設定を施した別のサーバーをデフォルトゲートウェイとして経由させ、必要なパッケージを一つずつ手元に引き込んでいく。蜘蛛の巣のように絡み合った依存関係を解きながら、少しずつ前に進む。墨を磨るのと同じで、焦ってもどうにもなりません。
泥臭い作業の先に見えたもの
この環境で作業していると、HPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)分野の設計思想が自然と見えてきました。
マスターノードと計算ノードの間——内部ネットワークのセキュリティは、計算効率を優先するためにあえてゆるく設計されています。その代わり、外部との境界を徹底的に固める。「内部のパフォーマンスを損なわず、外枠のガードを固める」という合理的な判断です。
こうした設計思想は、マニュアルを読むだけでは実感しにくい。実際に制限された環境の中で手を動かして初めて、「なぜこうなっているのか」が腑に落ちました。
書道も同じです。「なぜ墨を磨るのか」は、省略してみて初めてわかります。墨を磨る時間は、準備であると同時に、これから向き合う紙と自分を整える時間でもある。省けない理由が、やってみてわかる。
手順書一枚が、次の誰かを助ける
泥臭い作業の末に、PBS Professionalのインストール手順書をWordにまとめることができました。
この手順書は、次に同じ環境で作業する人が同じ壁にぶつからないためのものです。今回私がぶつかった「command not found」の壁も、依存関係の迷宮も、手順書の中に全部残してあります。
書道でいえば、師匠が書いた手本の一枚です。そこには技術だけでなく、「どこで詰まりやすいか」という経験が込められている。
目の前のコマンド一行、Wordの手順書一枚。それが誰かの「墨を磨る時間」を少し短くできるなら、泥臭い作業も悪くないと思っています。
