癖という名の「技術的負債」
エンジニアリングの世界には「技術的負債」という言葉があります。急いで実装したコードや、場当たり的に追加した設定は、後になってシステムの足を引っ張ります。
私の書道にも、全く同じ「負債」がありました。 先生から「その書き方は癖になっているね」と指摘された時、ふと気づいたのです。この癖がつくのに35年かかったのだとすれば、これを直すのにも、もしかしたら同じくらい長い時間が必要なのではないか……と。
システムならコードを書き換えれば一瞬で直りますが、書道という「人間OS」に染みついたロジックは、そう簡単にはリファクタリングできません。
1. 負債を認識する(ログの可視化)
癖を直すための第一歩は、その存在を正しく認識することです。 私は、「の」を書く時に手首が回ってしまうという癖を、これまでは「無意識の処理」として放置していました。しかし、先生の指摘によって、それが「システム上の非効率な動作」として明確にログに記録されました。
「悪い癖」は、一度ついてしまうと自分では気づけません。だからこそ、第三者(レビュアー)のレビューが不可欠なのです。
2. 「最初の練習」という名の定時実行タスク
では、35年分の負債をどう返済していくか。 私は、筆を持ったら真っ先に「その癖を意識するための練習」を最初に行うことに決めました。
- 毎日の定時実行: 練習の冒頭に、あえてその癖が出やすい文字を、ゆっくり、丁寧に書く。
- モニタリング: その際、手首が回っていないか、肘が動いているかをチェックする。
「筆を持ったらまずこれをする」というルーチンを組み込むことで、脳に新しい挙動を定着させていきます。
3. 「気づく」から「修正」へ
以前は、書き終わってから「ああ、またやってしまった」と後悔していました。しかし、今は違います。練習を続けていくうちに、「今、手首が回った!」と、書いている最中に気づく瞬間が訪れるようになったのです。
この「気づき」こそが、デバッグのゴールです。 「気づく」ことができれば、その瞬間に筆を止め、正しい軌道に修正することができます。35年かけて染みついた回路を書き換えるのは時間がかかるでしょう。でも、今こうして「気づき」を得て、少しずつ修正を重ねている時点で、私のシステムは確実にアップデートされています。
負債は、未来の洗練へのチケット
35年という歳月をかけて作られた負債は、裏を返せば、私がそれだけ長く書道と向き合ってきたという証でもあります。
「直すのに時間がかかる」というのは、絶望ではありません。これから先、時間をかけて自分の筆使いをリファクタリングし、より洗練された字を書くためのチケットです。
急ぐ必要はありません。今日も、筆を持ったら真っ先にその「癖」と向き合う。そうやって、一つずつ負債を返済し、自分というシステムをアップデートしていきましょう。

