エンジニアとしてITインフラを守る日々ですが、実はプライベートでもう一つの「インフラ」を守る重責を担っています。分譲マンション管理組合の理事長という役割です。
ここでの仕事は、技術の世界以上に「人間」と「法律」、そして「境界線」が複雑に絡み合います。
1. 「専有部」という聖域と、理事長の距離感
ある時、管理会社を通じて「隣の部屋がうるさい」という苦情が届きました。 しかし、区分所有法において、マンションの「専有部(部屋の中)」で起きているトラブルは、本来管理組合が介入すべき範疇ではありません。
法律の境界線を守りつつ、角を立てずに収める。 私は管理会社に対し、「時間を変えて両隣を訪ねましたが、あいにくご不在でした」という報告に留め、あえて深追いせず「放置」という選択をしました。
冷たく聞こえるかもしれませんが、「どこまでが組合の責任か」という境界線(セグメント)を明確に引くことは、インフラを守るエンジニアの感覚にとても似ています。
2. 予期せぬ「漏水」と、現場の決断
また、共用部で微量な漏水が発生したこともありました。 請負の工事会社から、管理会社をとおして少し威圧的な態度で詰め寄られるという厄介な展開に。正直、非常に面倒な事態でしたが、私は保険を使わず、現金で支払いました。管理会社が交渉して値引きとなりました。
幸い、階下がリノベーション中で空室だったことが救いでした。 「被害を最小限に食い止め、迅速にクローズさせる」 これもまた、現場でトラブル対応にあたる技術者が、コストとリスクを天秤にかけて下す判断と同じです。
3. 「努力は無料ではない」という報酬の考え方
当マンションでは、役員を引き受けてくださる方に、多くはありませんが「報酬」を出しています。
世の中には「お金を払えば役員を免除される」という考え方もありますが、私の考えは少し違います。役員の方は、自分の大切なプライベートの時間を、他の所有者の利益のために差し出してくださっている。 その努力やコストは、決して「無料」であってはならないと思うのです。
得意なことを持ち寄り、責任を背負う。その対価を正当に認めることが、健全な組織運営の第一歩だと判断し、
他の所有者も認めてくださいました。
4. 支えてくれる「静かな協力者」たち
もちろん、役員になれない事情がある方もいらっしゃいます。 けれど、そんな方々の中にも、こちらの話に真摯に耳を傾けてくださる方や、アンケートに丁寧に答えてくださる方がいらっしゃいます。
派手な活動ではなくても、そうした協力に、管理組合という組織は支えられています。
インフラを守る「余白」の心
ITインフラも、マンション管理も、平穏な時は誰もその存在を意識しません。 けれど、その裏側には必ず、境界線を見極め、時には誰かのために時間を使う人の姿があります。
今夜も温かい紅茶を飲みながら、一日の決断を振り返ります。他の 役員の方々への感謝と、協力的な所有者の方々への信頼。 その「心の余白」を大切にしながら、明日もまた、みんなが安心して暮らせるインフラを守っていきたいと思います。